一杯の
ホーリーバジルティーに
何が溶けているの?
インドで数千年にわたり親しまれてきたハーブ「ホーリーバジル(トゥルシー)」。そのお茶にどんな成分が含まれ、研究でどんなことが分かっているのかを、研究報告をもとに分かりやすくまとめました。
01ホーリーバジルってどんなハーブ?
ホーリーバジルは、パスタやピザでおなじみの「スイートバジル」の仲間ですが、別の種類の植物です。インドでは「トゥルシー(比べるもののないもの)」と呼ばれ、家庭の庭先で大切に育てられてきました。伝統医学アーユルヴェーダでは「不老長寿のハーブ」として扱われています。
- 和名
- カミメボウキ(神目箒)
- 学名
- Ocimum tenuiflorum
- 分類
- シソ科 メボウキ属
- お茶に使う部分
- 葉・花穂
近年注目されているのは、ホーリーバジルが「アダプトゲン」と呼ばれるハーブの代表格だからです。アダプトゲンとは、心や体にかかるストレスに対して、体が本来持っている「適応する力」を支えると考えられている植物のこと。高麗人参などもこの仲間です。
02お茶に溶け出す成分
ハーブの成分は、水に溶けやすいもの・油に溶けやすいもの・熱で香りとして立ちのぼるものに分かれます。お湯で淹れるハーブティーでは、成分によって「行き先」が変わります。
カップの中へ
- ローズマリン酸
- フラボノイド類
- アントシアニン(紫葉種)
湯気と香りに
- オイゲノール
- リナロール
茶葉に残る
- ウルソール酸
- オレアノール酸
- β-カリオフィレン
主な成分とその特徴
ホーリーバジルティーの主役ともいえる成分。ローズマリーやシソにも含まれるポリフェノールで、体の「サビつき(酸化)」から守る抗酸化作用や、炎症をおだやかにする働きが研究されています。水によく溶けるので、お茶にしっかり移ります。
植物の色素や苦みのもとになるポリフェノールのグループ。ローズマリン酸と一緒に、お茶全体の抗酸化力を支えています。蒸らし時間を長くするほど多く溶け出しますが、そのぶん渋みも増します。
クローブ(丁子)に似た、スパイシーで温かみのある香りのもと。ホーリーバジルらしい風味を決める成分です。抗菌作用や、消化を助ける働きが研究されています。熱で揮発しやすいので、ふたをして蒸らすとお茶に残りやすくなります。
ラベンダーにも含まれる、甘くやさしい花の香りの成分。とくに「カプーア種」に多く、フルーティーな香りのもとになっています。香りをかぐことでリラックスにつながる可能性が研究されています。飲むだけでなく、湯気の香りを楽しむこともお茶の大切な時間です。
ブルーベリーなどにも含まれる紫色の色素で、抗酸化成分の一つ。葉や茎が紫色の「クリシュナ種」に多く含まれます。お湯に溶けるので、クリシュナ種のお茶はほんのり色づきます。
ホーリーバジルの美容成分としてよく名前が挙がる「ウルソール酸」は、水にほとんど溶けない成分です(油にも溶けにくく、アルコールの方が取り出しやすい性質があります)。そのため、ハーブティーとして飲んでもカップの中にはごくわずかしか入りません。ウルソール酸もとりたい場合は、葉を粉末にして丸ごと摂る方法が向いています。お茶の魅力は、あくまで水に溶けるポリフェノールと香りにあります。
03研究で分かっていること
ホーリーバジルについては世界中で研究が進んでいますが、その確かさはテーマによってさまざまです。ここでは、研究がどの段階まで進んでいるかを色分けして紹介します。
※人を対象にした試験の多くは、お茶ではなく濃縮エキス(カプセル)を使っています。お茶は成分の量がずっと少ないため、同じ結果になるとは限りません。
ストレスと上手に付き合う
ストレスを感じている大人100人を対象にした試験で、ホーリーバジルのエキスを8週間とったグループは、プラセボを飲んだグループに比べて、ストレスの自覚がより軽くなったと報告されています(プラセボ:約2割、ホーリーバジルエキス:約4割低下)。また長期的なストレスの目安となる「毛髪中のコルチゾール(ストレスホルモン)」も、プラセボのグループより低い値でした。
眠りの質
上と同じ試験で、睡眠の質の改善も報告されています。ホーリーバジルにはカフェインが含まれていないので、夜のリラックスタイムにも取り入れやすいお茶です。
食後の血糖値
少人数の試験で、ホーリーバジルの葉をとったあとに空腹時や食後の血糖値が下がったという報告があります。ただし試験の規模は小さく、結論を出すにはさらに研究が必要です。
体の「サビつき」対策
お茶に溶け出すローズマリン酸やフラボノイドは、試験管の実験で高い抗酸化力を示しています。体の中でどこまで同じように働くかは、これから明らかになっていく分野です。
食後のおなかをすっきり
インドでは昔から、食後の消化を助けるハーブとして飲まれてきました。香り成分オイゲノールが胃腸の働きを助けることが、動物実験などで報告されています。
血圧とストレスの関係
動物実験では、ホーリーバジルのエキスに血管をゆるめる働きや、高くなった血圧を下げる働きが報告されています。また、ストレスを感じると体は血管を縮めて血圧を上げようとするため、ストレスがやわらぐことが血圧の安定につながる可能性も考えられています。人での研究はまだ少なく、今後の研究が待たれる分野です。
甲状腺ホルモンへの影響
マウスに葉のエキスを15日間与えた実験で、甲状腺ホルモンの一種(T4)が低下したという報告があります。人で同じことが起きるかは確かめられていませんが、甲状腺の働きに関わる可能性がある点は知っておきたいところです。
ゆらぎやすい肌と「心」の関係
強いストレスや睡眠不足が続くと、肌荒れしやすくなることが知られています。お茶が直接肌に作用するというより、ストレスや睡眠を整える習慣を通じて、肌のコンディションを支えるという考え方です。
女性ホルモンのバランスへの影響についても研究が行われていますが、現時点では人での確かなデータが限られています。「ストレスがやわらぐことで、結果的に体のリズムが整いやすくなる」という、間接的な関わりとして考えるのが自然です。
04おいしい淹れ方
ポットやカップで淹れる:基本の淹れ方
成分と香りをバランスよく引き出す、いちばん手軽な方法です。
- ふたの裏の水滴は香りのエキス。揮発した香り成分が集まっているので、カップに戻すと風味が豊かになります。
- 濃いめが好きなら5〜7分。ポリフェノールがより多く出ますが、渋みも増えます。お好みで調整を。
- 生の葉なら10枚ほど。軽くもんでから淹れると香りが立ちます。乾燥葉より爽やかな味わいに。
- 水出しもおすすめ。水500mlに乾燥ハーブ5gを入れ、冷蔵庫で6〜8時間。まろやかで香りの良いお茶になります(成分の出方はお湯よりおだやかです)。
- アイスティーにするなら。通常の2倍の量で濃く淹れ、氷を入れたグラスに注ぎます。
やかんで煮出す:成分をしっかり引き出したいときに
ポットで蒸らすよりも長く加熱するので、ローズマリン酸やフラボノイドなどのポリフェノールがより多く溶け出します。家族で飲む分や、作り置きにも便利な方法です。
- 最後の「香り戻し」がポイント。長く煮出すと、リナロールなどの華やかな香りは湯気と一緒に飛んでしまいます。火を止めてから茶葉を少し足すと、成分の濃さと香りを両立できます。
- やかんはステンレス・ホーロー・耐熱ガラスがおすすめ。鉄やアルミのやかんだと、ポリフェノールと金属が反応して、お茶が黒っぽくなったり味が変わったりすることがあります。
- 作り置きは冷蔵庫で1〜2日以内に。茶葉はこしてから保存し、飲むときに温め直すか、そのまま冷たいお茶として。
05品種ごとの味わい
ホーリーバジルにはいくつかの品種があり、香りや味わいがかなり違います。はじめての方には、クセが少なく香りの良いカプーア種がおすすめです。
カプーア温帯でも育つ品種はじめての方に
甘くフルーティーで華やか。リナロールによる、やさしい花の香り。
ラーマ緑葉種
すっきりとしたクローブ調で、まろやか。飲み飽きないバランス型。
クリシュナ紫葉種
スパイシーで力強く、ややペッパー調。紫の色素(アントシアニン)で、お茶がほんのり色づきます。
バナ野生種
クローブの香りがとても強く、キリッとシャープ。
※植物学的には、ラーマとクリシュナが本来のホーリーバジル(Ocimum tenuiflorum)、カプーアは Ocimum africanum、バナは Ocimum gratissimum という近縁の別種です。いずれもインドではトゥルシーの仲間として親しまれ、ホーリーバジルとして流通しています。
06ブレンドのアイデア
ホーリーバジルはほかのハーブやスパイスとの相性も抜群です。ホーリーバジル2に対して、ブレンド素材1くらいから試してみてください。
+ よもぎ
インドの聖なるハーブと、日本の薬草の組み合わせ。よもぎの素朴な香りが、カプーア種の華やかさで洗練された味わいに。体を温めたい季節に。+ しょうが
ピリッとした温かさが加わり、寒い日や食後にぴったり。スライス1〜2枚で十分です。+ レモングラス
爽やかな柑橘系の香りが加わり、ぐっと飲みやすく。アイスティーにもおすすめ。+ ルイボス
カフェインゼロ同士の組み合わせ。まろやかなコクが出て、夜のリラックスタイムに。+ はちみつ
スパイシーさがやわらぎ、子どもにも飲みやすい味に。少し冷ましてから加えると風味が生きます。※1歳未満の赤ちゃんには、はちみつを与えないでください(乳児ボツリヌス症のおそれがあります)。
+ ミルク(チャイ風)
濃いめに煮出してミルクを加えれば、カフェインゼロのハーブチャイに。シナモンやカルダモンを添えても。07飲む前に知っておきたいこと
ホーリーバジルは食品として長く親しまれてきたハーブですが、体に働きかける力があるからこそ、次のような方はご注意ください。
⚠️ 次に当てはまる方は、飲む前に医師・薬剤師にご相談ください
- 妊娠中・授乳中の方、妊娠を希望している方:安全性を確かめたデータが十分ではありません。動物実験では生殖機能への影響も報告されているため、控えるのが安心です。
- 糖尿病のお薬を飲んでいる方:血糖値を下げる作用が報告されているため、お薬と重なって下がりすぎる可能性があります。
- 血液をサラサラにするお薬(ワルファリンなど)を飲んでいる方:血が止まりにくくなる可能性があります。
- 手術の予定がある方:上と同じ理由で、手術の2週間前からは控えてください。
- 血圧のお薬を飲んでいる方:お薬の働きと重なる可能性があります。飲み始めたら血圧の変化に気を配り、お薬の量は必ず主治医と相談して決めてください。
- 甲状腺の病気で治療中の方、甲状腺のお薬を飲んでいる方:動物実験で甲状腺ホルモンが下がったという報告があるため、念のため主治医にご確認ください。
- 持病がある方、日常的にお薬を飲んでいる方:念のため主治医にご確認ください。
- シソ科の植物でアレルギーが出たことがある方:シソ・バジル・ミントなどと同じ仲間なので、アレルギー反応が出る可能性があります。
飲んでみて体に合わないと感じたときは、すぐに飲むのをやめてください。
08よくある質問
カフェインは入っていますか?
ホーリーバジルそのものにはカフェインは含まれていません。夜や就寝前にも安心して楽しめます。ただし、緑茶や紅茶とブレンドした商品にはカフェインが含まれるので、原材料表示をご確認ください。
1日に何杯くらい飲んでいいですか?
1日1〜3杯ほどを目安に、日々のお茶として楽しむのがおすすめです。たくさん飲めばそのぶん良いというものではありません。
いつ飲むのがいいですか?
リラックスしたい夜、食後、仕事の合間など、気分を切り替えたいタイミングがおすすめです。カフェインがないので時間帯を選びません。
どのくらい続ければいいですか?
研究では数週間〜8週間ほど続けて変化を見ているものが多くあります。一度で劇的に何かが変わるというより、毎日の習慣として気長に楽しむハーブです。
お薬の代わりになりますか?
ホーリーバジルティーは食品であり、お薬の代わりにはなりません。飲み続けて体調が良くなったと感じても、お薬を自己判断で減らしたりやめたりするのは危険です。血圧や血糖値が急に上がるなど、思わぬ体調の悪化につながることがあります。変化を感じたら、そのことを主治医に伝えて相談してください。
料理に使うバジルとは違うのですか?
同じシソ科メボウキ属の仲間ですが、別の種類の植物です。料理用のスイートバジルは甘く爽やかな香り、ホーリーバジルはクローブのようなスパイシーさや、品種によってはフルーティーな香りが特徴です。
淹れたあとの茶葉は再利用できますか?
2煎目も楽しめますが、香りと成分は1煎目より少なくなります。2煎目は蒸らし時間を少し長めにしてください。
参考にした主な研究
- Cohen MM. Tulsi – Ocimum sanctum: A herb for all reasons. J Ayurveda Integr Med. 2014;5(4):251–259. doi:10.4103/0975-9476.146554
- Jamshidi N, Cohen MM. The Clinical Efficacy and Safety of Tulsi in Humans: A Systematic Review of the Literature. Evid Based Complement Alternat Med. 2017;2017:9217567. doi:10.1155/2017/9217567
- Lopresti AL, et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial investigating the effects of an Ocimum tenuiflorum (Holy Basil) extract on stress, mood, and sleep in adults experiencing stress. Front Nutr. 2022;9:965130. doi:10.3389/fnut.2022.965130
- Pattanayak P, et al. Ocimum sanctum Linn. A reservoir plant for therapeutic applications: An overview. Pharmacogn Rev. 2010;4(7):95–105. doi:10.4103/0973-7847.65323
- Panda S, Kar A. Ocimum sanctum leaf extract in the regulation of thyroid function in the male mouse. Pharmacol Res. 1998;38(2):107–110. PMID:9721597
このページは、ホーリーバジルに関する研究報告を一般の方向けに紹介するものです。病気の診断・治療・予防を目的としたものではなく、ハーブティーは医薬品ではありません。体調に不安がある方、治療中の方は、医師・薬剤師にご相談ください。
